自宅向け新サービスの提供開始

2020年9月1日付でレアジョブ社より『学校と自宅で連動した中高生向けオンライン英会話 「Escholar – Online英会話」を提供開始』というニュースが発表されました。

提供するのは株式会社エンビジョンと株式会社Z会ソリューションズですが、エンビジョン社はレアジョブ社の子会社で、所在地も同じビルですので一部門のような位置付けと思われます。

株式会社エンビジョン(Envizion, Inc.)

以下、本サービス説明についての引用です。

人にまつわるデータを活用し、グローバルに活躍する人々を生み出す株式会社レアジョブ(以下、レアジョブ)の文教向けサービス事業子会社、株式会社エンビジョン(以下、㈱エンビジョン)と、株式会社Z会ソリューションズ(以下、Z会ソリューションズ)は、2020年9月1日より、校内学習用に提供しているオンライン英会話レッスンを、生徒が自宅でも利用できるサービス「Escholar – Online英会話」(イースカラーオンライン英会話)として提供を開始いたします。

サービス提供の背景
これまで㈱エンビジョンとZ会ソリューションズは、教育機関に対し、授業内や放課後に利用できるオンライン英会話レッスンを多く提供してきました。一方、新型コロナウイルス感染症の拡大により、学校内でのレッスン受講が一部困難となり、自宅でも同様の学習を受けられる仕組みの必要性が高まっています。
また、同時に文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」により、児童生徒への一人一台端末配布や、高速大容量の通信ネットワーク整備など、ICT教育の環境構築が急速に進んでいくことが予想されます。ICT教育が進展することで、学校と自宅の学習をシームレスにつなげ、さらには個人の得意不得意に合わせた個別の学びを提供していくことが可能となります。
今回のサービスは、今後の教育を取り巻く環境の変化を踏まえ、これまで学校のカリキュラムに特化して提供していたオンライン英会話サービスを、自宅でも受けられるようにします。これにより、場所や時間や環境の問題を解決し、学習内容の個別最適化などを実現することで、新たな学びの選択肢を提案します。

====引用ここまで===

要は学校の授業で取り組んでいた英会話学習の続きを、同じ教科書、教材で受講することができるというものです。

レアジョブ社の学校向け戦略

レアジョブのビジネスモデル

「レアジョブ」と聞くと大人向けの英会話をイメージする方が多いと思います。思い浮かぶキーワードは「オンライン英会話」、「スカイプ」、「マンツーマン」、「フィリピン人講師」、「価格が安い」あたりではないでしょうか。

英語が母国語、かつ人件費が安いフィリピン人を講師にし、主にビジネスマン対象にスカイプを使いレッスンを提供するビジネスモデルで一気に成長しました。ほぼ毎日25分間のレッスンができ、6,000円/月前後からとまさにエドテック(EdTech)の走りの企業です。

子ども向けサービスの拡張

2007年の設立から株式上場までは大人向けのオンライン英会話が主力でしたが、その後事業の多角化を進めています。2020年8月13日の決算発表の補足資料でも以下の事業紹介がされています。

出典:2021年3月期第一四半期決算補足説明資料

大人向けの「レアジョブ英会話」が主力なことは変わりませんが、法人向けや教育機関などのチャネルの多角化と共に子ども向けなどの対象年齢の拡張も進めています。

その中の子ども向けの事業を担っているのが先述した株式会社エンビジョンです。チャネル別に、
学校向け:「Escholar」(イースカラー)
個人向け(自宅学習):リップルキッズパーク
とサービス名称を切り分けて展開しています。

参考:子ども専門オンライン英会話「リップルキッズパーク」の紹介

学校向け英会話学習の提供

全国の教育機関向けでは、英語の授業の一環としてオンラインレッスンを提供しています。1対1、1対複数など、多様なレッスンに対応し、新学習指導要領に対応した専用教材の開発、ALTの派遣など、英語の授業設計から提案するそうです。中学高校をメインに一部小学校でも導入されています。

学校向け、特に国公立の教育機関への導入は大きなハードルがあります。予算取りや入札、複雑な承認ルートなど、民間企業向けとはステップの数も複雑さスピードの遅さも桁違いです。私も以前、某地方自治体の案件に携わったことがありますが、6月の時点で来年度の予算(1年先!?)に挙げるのに、議会への説明が必要と相談をいただきとても苦労しました。

文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」により追い風ではありますが、基本的な承認ルートは変わっていないと予想されます。導入事例に私立も含まれていますが、セオリーとしては、比較的交渉がしやすい私立学校に導入しその実績を元に公立に攻めていくというやり方ですが、これでも数年単位のスケジュールを覚悟する必要があります。

新サービスの狙いは?

ここまでご説明した背景を踏まえ今回発表された新サービス「Escholar – Online英会話」の目的について考察します。

結論から申し上げると「学習塾・英会話教室からの生徒の奪取」が目的です。理由の説明の前に、現在の学習塾・英会話教室の環境について整理します。

外部環境

理由の前に、外部環境の確認ですが、日本の少子化という大きなマイナストレンドです。その中でも学習塾業界は、単価のアップなどの努力効果により市場規模は微増でしたが、先々に子どもの取り合いになることは必須です。

出典:三井住友銀行「学習塾業界を取り巻く事業環境と今後の方向性」

教育環境の変化

教育環境では、2020年度からは新学習指導要綱に基づき、小学校3年生から外国語学習が取り入れら、英語をはじめとする外国語学習を提供する事業者に取っては追い風の状況です。学校で「英会話」を教えられる人材は限られているため、民間の英会話教室や英会話を対応している学習塾にとっては大きなビジネスチャンスでした。

参考記事:2020年度英語学習改革

コロナウィルスによる影響

しかし、2020年に発生したコロナウィルスの影響により、2つの面で厳しい環境に置かれました。一つ目は、対面授業の抑制です。英会話教室や学習塾は駅前の好立地に教室を構え、先生一人に対し複数の生徒で授業を行うことが基本スタイルです。個別指導を売りにする学習塾もありますが、生徒は個々に勉強しつも一人の先生が複数の生徒を受け持つことには変わりありません。

このビジネスモデルは、好立地の教室に多くの生徒を入れ回転させることで利益を出すモデルのため、コロナウィルス対策の要である密集を避けるは致命的です。

2つ目は、外国人講師が足りないことです。コロナ発生以降、国内にいた外国人講師は帰国し、新たな講師が入ってこない状況が続いています。2020年8月時点でコロナの影響は、横ばい、国によってはダウントレンドですが、急回復を望むことは難しいです。

とはいえ、塾業界も生き残りのためためオンライン授業を取り入れたり、密集を避ける形での授業の提供など工夫を凝らして彼らのビジネスを継続しています。

生徒集客競争の激化

新サービス「Escholar – Online英会話」が入ってくることで新たな戦いが勃発します。これまでは学校と放課後の学習は棲み分けがなされていたため、学習塾は放課後や休みの日などの学校以外の時間での学習サポートを目的に、サービスを提供してきました。

主な生徒の集客手法としては、商圏内でのチラシ配布を中心とし、加えて全国展開をしている学習塾はテレビCMやインターネット広告を組み合わせたものでした。春休みや夏休みに体験学習や講習会をフックに一気に集客し、定常的に通ってくれる生徒を獲得するというのが例年の流れでした。

つまり、いかに教室に通える範囲の対象年齢の子ども(保護者)にアプローチできるかが重要でしたが、ここにEscholar – Online英会話が参入してくる訳です。しかも、Escholar – Online英会話(レアジョブ)は、学校という「面」を押さえているので、競合からすると厳しい戦いになります。

Escholar – Online英会話の優位な点

Escholar – Online英会話は、広告宣伝費を掛けずにターゲットに効率的にアプローチできる点が非常に優位です。

学習塾業界は、春休みや夏休み前に掛けて多くの予算を投下し集客します。この時期を逃すと新たに塾に通うタイミングがないため年間予算の8割をこれらの時期に投下すると言われています。

一方でEscholar – Online英会話は、すでにターゲットとなる子どもたちに満遍なくアプローチ済みの状態からスタートできます。認知のフェーズは完了しているのであとはどれだけ多くの子どもに家でも使ってもらえるようにするかというのがポイントなります。

また、学校公認という点においても有利です。皆さんも経験があると思いますが、新たに習い事や学習関連のサービスを利用する際に提供している会社が信頼できるかは大きな判断要素になります。その点「学校で導入されているサービス」というのは絶大な信頼性がありますので広告で見かけた聞いたことのある会社名とは大きな差があります。

つまり、民間の学習塾や英会話教室がアプローチする前に、学校という場において面で押さえてしまうということができるため、マーケティングの面で非常に優位なポジションにつくことができるという訳です。

想定される課題

Escholar – Online英会話の戦略は、これまでの戦い方を一変させる素晴らしいものですしコロナ禍の外的要因もあり追い風ですが、想定される課題もあるので幾つか挙げてみます。

公平性の担保

公教育の場ではすべての生徒平等であることが求められます。費用やデバイスに制約がある場合は、制約がある方に合わせざるを得ず、一律のサービス展開をすることが難しい場合があります。企業サイドからすると追加で費用が払える家庭やデバイスを持っている子どもなど、条件が良いところからアプローチするのが常ですが、全員一律を求められるため提供できる内容に制限が出てきてしまいます。

価格設計

上記の公平性の担保と関連するところですが、レッスンあたりの平均単価を上げることやオプションを用意して追加料金を徴収することが難しくなります。良いサービスを提供し、満足いただければその分の対価をいただくという民間ビジネスの原則が成り立たないのが公教育の悩ましいところです。

面の拡大

競合である学習塾や英語教室に勝る点として、広告より前段階の面を抑えることについてはご説明した通りですが、そもそも学校への導入を進めないと面が広がらない点に注意が必要です。広告であれば予算次第では、一気に数千数万人規模の子どもたちにアプローチができますが、導入学校の生徒でその規模を作るのは容易ではありません。

まとめ

以上のように今回発表があった「Escholar – Online英会話」(イースカラーオンライン英会話)」は、ゲームチェンジのきっかけになるポテンシャルを秘めています。子どもたちにとってもマンツーマンのオンライン英会話自体での授業も良いことですし自宅でさらに追加で受講できることは大変素晴らしいことです。ぜひレアジョブ社、エンビジョン社には頑張って拡大していただきたいです。

余談

フィリピン講師を活用したオンライン英会話はレアジョブ以外にも数多存在しますが、このビジネスモデルには「入会者は増えても利用率は低い方が儲かる」という面白い点があります。

入会者の月額金額は一定の金額で利用者は毎月チケットをもらって自分で予約していくスタイルが主流です。利用者が予約してレッスンが発生すると講師の費用が発生しますが、チケットが利用されずに消化されると丸々粗利として残ります。当然長く続けてもらうことで支払い総額は増えるため、利用率を上げることも大切ですが、レッスンが実施されると費用が発生し利益率が悪くなるというジレンマがあります。